エンジニアの年収を決める条件のうち、最も分かりやすいのが実務経験年数です。求人票の要件も、エージェントの初回面談も、まず年数から入ります。
ただし「年数を重ねれば一定のペースで上がる」わけではありません。伸びが集中する区間と、ほとんど動かない区間がはっきり分かれています。
年数別の推定レンジ
上場・大手企業/東京勤務/スキルは中位、という条件を固定して、経験年数だけを動かした推定です。
| 実務経験 | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| 未経験 | 340〜399万円 | |
| 1年未満 | 383〜449万円 | |
| 1〜2年 | 425〜499万円 | |
| 3〜5年 | 531〜624万円 | |
| 6〜9年 | 638〜748万円 | |
| 10年以上 | 723〜848万円 |
最も人数の多い帯である実務3〜5年で、推定レンジは531〜624万円、中央値は578万円です。未経験の340〜399万円から見れば、5年で約1.5倍になる計算になります。
伸び幅を並べると偏りが見える
上の表を中央値だけ取り出し、1つ前の年数帯からの増加を並べます。
| 年数帯 | 中央値 | 前の帯からの伸び |
|---|---|---|
| 未経験 | 370万円 | — |
| 1年未満 | 416万円 | +46万円 |
| 1〜2年 | 462万円 | +46万円 |
| 3〜5年 | 578万円 | +116万円 |
| 6〜9年 | 693万円 | +115万円 |
| 10年以上 | 785万円 | +92万円 |
1〜2年から3〜5年への伸びが、その前の区間の2.5倍あります。ここが最初の分岐点です。
なぜ2年目から5年目で加速するのか
この区間で変わるのは、スキルの量ではなく任される判断の範囲です。
- 1〜2年:レビューを前提に、決められた仕様を実装できる
- 3〜5年:仕様の曖昧さを自分で潰し、設計判断を含めて完了まで持っていける
会社から見ると、前者は工数が読める代わりに監督コストがかかります。後者は監督コストが要りません。誰かが1日1時間レビューに使っていた分が丸ごと浮くので、その差が給与テーブルの等級として現れます。
判別の仕方
自分がどちらにいるかは、次の問いで分かります。
「いま担当している範囲で、仕様の曖昧さを誰が潰しているか」
自分でないなら、まだ実装者の位置にいます。年数が3年でも5年でも、ここが変わっていなければ年収は1〜2年の帯に留まります。
実データで見る年齢カーブ
推定モデルだけでなく、実際の統計でも同じ形が出ます。国税庁の統計で情報通信業の平均給与を年齢階層別に見ると、こうなっています。
| 年齢 | 平均給与 |
|---|---|
| 20〜24歳 | 375万円 |
| 25〜29歳 | 490万円 |
| 30〜34歳 | 553万円 |
| 35〜39歳 | 652万円 |
| 40〜44歳 | 709万円 |
| 45〜49歳 | 750万円 |
| 50〜54歳 | 796万円 |
| 55〜59歳 | 882万円(ピーク) |
| 60〜64歳 | 639万円 |
20〜24歳から25〜29歳への伸びが115万円と大きく、そこから30代前半にかけては63万円。社会人3〜5年目にあたる区間で最も伸びるという点で、当サイトの推定モデルと同じ形です。
60歳で243万円落ちる
このカーブで最も目を引くのは、55〜59歳の882万円から60〜64歳の639万円への急落です。243万円、率にして28%下がります。
定年後の再雇用で給与が大きく下がる仕組みが、そのまま数字に出ています。「勤め続ければ上がり続ける」わけではなく、上がるのは59歳までというのが実際の形です。
6年目以降は伸びが鈍る
6〜9年で+115万円、10年以上で+92万円。伸びは続きますが、年あたりで見ると鈍化しています。
これは全職種の統計でも同じ形が出ています。20代 365万円 から30代 454万円 で+89万円、30代から40代 517万円 で+63万円、40代から50代以上 601万円 で+84万円。伸び幅は年齢とともに小さくなり、しかも直近では40代が前年比−2万円、50代以上が−6万円と下がっています。
年数そのものが評価される部分が減り、何ができるかで差がつく局面に入るためです。
この区間で伸ばしている人がやっていること
10年目以降も年収が上がり続けている人は、たいてい次のどれかに移っています。
- 技術の深さで替えが利かなくなる — パフォーマンス、信頼性、セキュリティなど、事故ったときの損失が大きい領域
- 設計と意思決定の範囲を広げる — アーキテクチャ、技術選定、負債の返済計画
- 人と組織に効かせる — 採用、育成、チームの生産性
- 事業に近づく — プロダクト判断、収益に直結する意思決定
逆に、5年目と同じ仕事を10年目も続けている場合、年収はほぼ横ばいになります。年数は増えても、会社が支払う額を増やす理由が増えていないからです。
未経験から1年目の扱い
未経験370万円と1年未満416万円の差は46万円で、他の区間に比べると小さくなっています。
実務に入った瞬間に価値が跳ね上がるわけではないためです。最初の1年は、会社が学習コストを負担している期間として扱われます。
この時期に年収で悩むより、レビューを一発で通るコードを書けるようになることのほうが、結果的に早く効きます。次の帯(1〜2年 → 3〜5年)の+116万円が、キャリアで最も大きい一段だからです。
年数が同じでも、200万円の幅がある
ここまで年数で整理してきましたが、同じ年数帯の中の幅のほうが、年数間の差より大きいことがあります。
実務3〜5年・東京・上場企業という同じ枠で、スキルの水準だけを変えるとこうなります。
- スキル下位(スコア30):491〜576万円
- スキル中位(スコア50):531〜624万円
- スキル上位(スコア85):602〜707万円
中央値で121万円。これは「1〜2年 → 3〜5年」の伸び116万円を上回ります。
つまり、同じ3年目の中でのスキル差は、1年目と3年目の差より大きい。 年数は前提条件であって、評価そのものではありません。
さらに企業タイプを変えれば、同じ3〜5年の中で210万円動きます(企業タイプ別の記事)。
年数を伝えるときの注意
職務経歴書で「実務5年」と書くとき、相手が知りたいのは在籍期間ではありません。その5年で何を判断してきたかです。
- 「5年間、Webアプリケーションの開発に従事」→ 何も伝わらない
- 「3年目から仕様策定に入り、決済まわりの設計を担当。障害対応の一次受けを2年」→ 判断の範囲が伝わる
同じ5年でも、後者は3〜5年の帯の上端、前者は下端として扱われます。書き方の問題ではなく、実際にやったことの差がそのまま出ます。
まとめ
- 伸びが最大なのは1〜2年から3〜5年への区間(+116万円)。「判断する側」に移れるかで決まる
- 6年目以降は年あたりの伸びが鈍る。全職種統計でも40代・50代は前年比マイナス
- 同じ3〜5年の中のスキル差(121万円)は、年数1段分の伸びより大きい
- 年数は前提条件であって、評価そのものではない